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身近でできる安全・安心有機栽培の基礎知識(1)

第1章 有機栽培の土づくり


有機栽培、農薬不使用栽培、化学肥料不使用を行って失敗した経験はありませんか?
自分で食べる自家菜園の野菜は、より安全でおいしいものを収穫したいですね。

このシリーズでは、失敗しない有機栽培のための基礎知識を連載します。ぜひ参考にしてください。

なぜ化学肥料を使用しないのか?


有機栽培では化学肥料は使用できません。化学肥料は作物の生産効率を大いに改善しましたが、その依存と多用によって地力を弱め、地下水汚染や河川の富栄養化を招き、自然生態系に悪影響を与えてしまいました。

また、化学肥料に依存した栽培では、作物自身が根を深く細かく張る必要がなく、植物本来の生命力に満ちた状態ではないため、作物の栄養価が薄らぐといわれています。

また、作物に残留する過剰の硝酸態チッ素(※1)は人の細胞を酸化させ、病気になりやすくなるという説もあります。
化学肥料が使用できない有機栽培では、地力を高める土づくりが必要になります。

肥よくな土とは?


例えばマサ土(※2)などは、やせた土です。

やせた土とは、陽イオン交換容量(CEC)(※3)が小さい土のことで、植物の栄養分のうち陽イオンであるアンモニウム、カリウム、カルシウム、マグネシウムなどを保持する力が弱いため、これらがすぐに流亡(※4)してしまいます。
また、構造的にも単粒構造で、水はけも水もちも悪いため、バーミキュライトやゼオライトなどの土壌改良資材を使用くする方法が必要になります。
さらに堆肥を投入することによって、単粒構造の土壌が堆肥中の腐植(※5)やミミズなど土壌動物の排せつ物などとくっつき合って、団粒構造が形成されていきます。

団粒構造が発達した土は柔らかく、水はけ、水もち、通気性がよく、根が発達しやすい土になります。
意外かもしれませんが、根には酸素が必要で、酸素濃度が土壌の10%前後では生育の遅れが発生し、5%以下では生育が止まってしまいます。

水はけの悪い土は根が酸素不足になり根腐れを起こしてしまいます。
また、土壌中の腐植が増えると、陽イオンだけでなく硝酸態チッ素などの陰イオンも保持できるようになり、リン酸分の植物への吸収もよくなるなど、肥料もちや肥料効率が高くなります。

土づくりのための堆肥とは?


ここまで読んで、「なーんだ。お決まりの堆肥を利用しましょうという話か」と思っていませんか?先述のような理想の土にするには、そんなに簡単なものではありません。
本来、堆肥と厩肥は別々の物でしたが、現在では厩肥=堆肥が一般的になってしまっています。

皆さんは堆肥をどのように理解していましたか?
ここでは堆肥と厩肥を区別して、その違いをお話します。

有機栽培で求められる本来の堆肥とは、ワラなどの枯れた植物体を微生物の働きで発酵分解させたもので、その主成分は腐植です。
肥料成分は低く、主な役割は土の団粒構造を促進することです、雑木林の落葉の下の土に近い、腐葉土をより分解させた状態の物をイメージしてください。

このような土にはモグラ、ミミズ、トビムシ、ダニなどの土壌動物が生息し、土壌微生物とともに有機物分解の一翼を担ってくれています。

特にミミズは、落ち葉などを食べて堆肥化し、そのふんは濃縮化された栄養分に富み、団粒構造も促進してくれます。
また、ミミズが掘った穴は通気性や水はけを高める効果もあり、このミミズが活動できる堆肥が土づくりに必要な堆肥なのです。

家庭でできる身近な堆肥は、生ごみ(水分をよく切り、塩分を除きます)や落葉などに、微生物のエサとなる米ぬかなどを入れ、近くの竹林や雑木林の落葉の下の土を入手するか、発酵促進用の元菌を購入して混合し、バケツかコンポスター(堆肥製造器)を利用して作ることができます。
また、ミミズを投入して分解させる方法も有効です。

厩肥利用の注意点?


一方、厩肥とは家畜や家禽(※6)の排せつ物を敷料(※7)とともに発酵分解させたもので、肥料分の補給が主な目的になります。

その成分は、原料や発酵分解の程度により大きく異なります。有機栽培スタート時には地力が弱いため、従来の収穫量を確保しようとすると、肥料分の高い厩肥に頼りがちになりますが、安易な厩肥の利用は土をだめにしてしまいます。
厩肥にも長時間発酵分解されて堆肥同様の効果があるものもありますが、一般的には発酵が不十分で、乾燥させただけのものが多く見受けられます。
発酵不十分な厩肥を使用してすぐにタネまきや定植をすると、分解途中のチッ素分が土壌中でガス化して植物に生育障害を起こします。
また、病害虫を引き寄せたり、厩肥の中に生きた雑草のタネや害虫の卵などが残っていて繁殖することもあります。

厩肥を原料から区別すると、鶏ふん、豚ふん、牛ふんの順で肥料分が高く、堆肥同様の腐植としての効果の点から見ると、その逆になります。
特に鶏ふんを利用する場合には、発酵分解が十分されているかどうか注意が必要です。

よい厩肥の見分け方は、アンモニア臭がきつくないもの、水分を与えても腐敗臭がなく、白い菌糸が発生するものなどです。

その他の養分補給の方法は?


厩肥以外の養分補給の代表的なものに油かすや魚かすなどの有機質肥料がありますが、化学肥料をただ単純に置き換えた使用のしかたでは、化学肥料を多用した場合の諸問題を解決することはできません。
有機質肥料は肥料の効きが遅いため、どうしても多めの使用になりがちです。

その点、肥料の効きが比較的早いのが、油かすや魚かすなどを発酵処理した「ぼかし肥料」で、多用しなくても十分に効果が得られます。

地力チッ素とは?


チッ素は作物の生長に欠かせない栄養分です。
作物が根から吸収利用できるのはアンモニア態や硝酸態と呼ばれる形態のチッ素ですが、有機栽培に重要なチッ素はそれだけではありません。
安定した作物生産を行うためには、地力チッ素も高める必要があります。

地力チッ素とは、動植物や微生物の死骸が分解されたもので、タンパク質やアミノ酸などからなり、化学肥料のように流亡せず土壌に蓄積されます。
地力チッ素は堆肥や良質の厩肥、ぼかし肥料からもたらされます。

また、チッ素固定菌(※8)の活発な世代交代によっても、大気中のチッ素が土壌に取り込まれ、地力チッ素が高まります。

地力を高めるには?


  1. 深耕(※9)、天地返し、必要があれば客土(※10)によって土壌の水はけを改善します。大規模な畑では明渠(※11)暗渠(※12)といった土地改良方法を用います。

  2. 輪作体系にマメ科作物(根粒菌を殖やす)や、イネ科などの根が深い作物(土の中の通気性や水はけをよくする)を導入し、緑肥(※13)としてすき込みます。

  3. 堆肥や腐植効果の高い厩肥を投入することにより、土壌の団粒構造を促進させます。

  4. チッ素だけではなくリン酸、カリ、その他の微量要素も考慮し、さまざまな有機物を発酵堆肥化させた「ぼかし肥料」を利用しながら地力を高めます。


■注記

※1 硝酸態チッ素(しょうさんたいちっそ)
植物が吸収利用できる状態のチッ素の一形態。植物はいったん硝酸態チッ素を吸収してから、アミノ酸やタンパク質などを合成する。チッ素は重要な肥料成分だが、過剰になると植物自身にも害をもたらす。

※2 マサ土(まさつち)
花崗岩が風化してできた土壌の一種

※3 陽イオン交換容量(よういおんこうかんようりょう)
土壌が肥料を保つ力を表す指標。植物に必要な栄養分の多くは土壌水分中で陽イオンとして存在する。土壌が陽イオンを結びつける力を化学的に測定した数値が陽イオン交換容量。

※4 流亡(りゅうぼう)
雨や水やりによって、土壌中の肥料分が流れて失われること。

※5 腐植(ふしょく)
土壌中の動植物の死骸が微生物の働きで分解された有機物。一般には土壌中の有機物の総称。

※6 家禽(かきん)
家畜同様に飼育される鳥。

※7 敷料(しきりょう)
家畜の寝床に使われるわらなどの資材

※8 チッ素固定菌(ちっそこていきん)
空気中のチッ素を体内に取り込むことができる微生物の仲間。マメ科植物の根と共生している根粒菌が有名。

※9 深耕(しんこう)
土を特に深く耕すこと。

※10 客土(きゃくど)
土壌を改良するために、他の土地から良質や土を運び入れること。

※11 明渠(めいきょ)
畑などの排水を高めるための、ふたのない溝。

※12 暗渠(あんきょ)
覆いをしたり地下に設けたりして、外から見えないようになっている水路。

※13 緑肥(りょくひ)
植物の葉や茎を生のまま切り刻むなどして田畑にすき込むこと。



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