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身近でできる安全・安心有機栽培の基礎知識(7)

前回はIPMハンドリング(総合的有害動植物防除管理)の概要を紹介しました。
大切な作物を食害する害虫、これを退治してくれるのが天敵です。天敵利用には市販の農薬登録された天敵を利用する方法と、その土地や地域に自然に土着している天敵を利用する方法とがあります。

ここでは家庭菜園でも利用できる身近な土着天敵を利用して害虫を抑える方法について紹介します。

食物連鎖が途切れない環境作り


害虫が作物を食べ、その害虫を天敵が食べ、その天敵をまた違う天敵が食べるといった関係を「食物連鎖」といいます。食物連鎖は複雑な網目状になっており、一言で片付けることができない自然の営みの世界です。

有機農業では「生物の多様性」を尊重し、食物連鎖による害虫と益虫の均衡の取れたバランス作りによって病害虫対策を考えます。
ある意味、野放図な放任栽培に見えるほ場であっても、自然の摂理にかなった計画的な多種多様な作物が植えられた場は、収穫に多大な影響が出るほどの被害は発生しないのです。

有機認定の検査で長年有機栽培を実践されているベテランの有機農家に、有機栽培への転換の動機やその過程での苦労話をお伺いする機会がありますが、皆さん口をそろえておっしゃるには、「農薬の使用を中止すると初年度は必ず病気と虫によって多大な被害を受け出荷がほとんどできない。一緒にスタートした仲間はその過程で我慢できなくなって、やっぱり有機栽培は無理だとあきらめて農薬を散布してしまう。でも農薬によって遮断されていた食物連鎖が回り始めると、翌年は初年度ほど被害は出ない。年を経るごとに土もできてきて、作物のできもよくなり病害虫の被害に困ることはなくなる」と。
 
「自然との共生」が大切なんですね。

代表的で身近な土着天敵


最も大きく身近な天敵は、小鳥(シジュウカラ、ムクドリ、モズ、スズメ、オナガ、ヒヨドリなど)です。
さつまいも畑のヨトウムシ対策、雑草対策にニワトリを10a当たり5羽放し飼いにし、効果をあげている例もあります。ニワトリはイモの葉が嫌いなようです。
 
カエルは益虫も害虫も捕食します。
トカゲは畑の中に住むヨトウムシ、ネキリムシ、カタツムリ、ナメクジを捕食します。
カマキリ(オオカマキリ、ウスバカマキリ、ハラビロカマキリ)は蛾や蝶など生きた虫を捕食します。 
クモ(土用鬼グモ、赤胸グモ、足長グモ、子守グモ、地グモ)は巣を張ったりして捕獲して害虫を食べてくれます。
 
あなたの畑でこれらの小動物を見つけることができますか?

特にカマキリは有能な天敵で4月下旬から5月にかけてふ化し、大きな成虫は9~11月にかけて見つかります。生きた虫なら何でも食べてくれます。カマキリを見つけたら捕獲して畑に放しましょう。


害虫と益虫


虫にも害虫と益虫と無害な虫とがあります。すべての虫が害虫というわけではありません。
 
害虫には、ノミの仲間、シラミの仲間、ハエの仲間、蚊の仲間、蝶の仲間、蛾の仲間、バッタの仲間、カメムシの仲間、セミの仲間(カイガラムシ)などが、益虫には、ウスバカゲロウの仲間、トンボの仲間、ハチの仲間、テントウムシの仲間、クモの仲間などが、無害なただの虫には、ケラ、キリギリスの仲間、トビケラ、カブトムシの仲間、ホタルの仲間、アリの仲間、ダンゴムシなどです。

有機認定の検査の現場では、畑にこれらの虫がいるかいないかも農薬を使用していない根拠として現地確認します。
 

土着天敵を誘導するバンカープランツ(天敵養生植物)


天敵を有効活用するには、天敵が好む環境を畑の近くに作ってやる必要があります。近くに自然が残っていないコンクリートジャングルの中の畑では、作物は害虫の餌食になりやすくなります。
周りの自然と隔絶しないようにして天敵を誘導する植物(バンカープランツ)を周辺に作付け、畑に土着天敵が飛来しやすい環境を作る必要があります。
 
ソルゴーやムギ(植物に害を及ぼさないアブラムシを寄せて、その天敵である寄生昆虫のアブラバチを増やす)、クローバー(キャベツの周りにクローバーを植え、クローバーにアブラムシやアザミウマなどの害虫が発生、キャベツには害虫がつかず、クローバーについた害虫を天敵が捕食し、ついでにキャベツについた害虫も捕食してくれる)、ヨモギを植え効果をあげている事例があります。
 
バンカープランツに害虫がつき、その害虫に誘引されて天敵が集まります。その集まった天敵に畑の作物の害虫も退治してもらうおとり作物です。また忌避植物であるマリーゴールド、ナスタチューム、チャイブ、ミントなどのハーブ類をバンカープランツの内側に作付けし、バンカープランツに害虫を集め、収穫対象の作物を守る方法もあります。


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