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身近でできる安全・安心有機栽培の基礎知識(6)

前回は農薬の定義から農薬でないものを整理しました。有機農産物のJAS規格では、有害動植物の防除は、IPMハンドリング(総合的有害動植物防除管理)によって行うこととなっています。
今回はその手法についてお話しします。

IPMハンドリングとは?


有機栽培の有害動植物の防除方法は、基本的に農薬は使用しません。

  • 耕種的防除(通常行っている栽培内容を変更することにより防除する方法)
  • 物理的防除(物理的な性質を利用して防除する方法)
  • 生物的防除(生物同士の相互作用を利用して防除する方法)
これらの組み合わせによって行う防除方法を、IPMハンドリング(総合的有害動植物防除管理)と言います。

その具体的な防除対策とは?


  1. 土作りを兼ねた防除対策
    • 輪作の導入や混植、間作の導入
    • 3~4年の周期で水田と畑地の状態を入れ替える田畑転換による土壌病害と雑草の抑制
    • 灌漑、耕起、中耕(※1)、天地返しによる土壌病害や雑草の抑制
    • 土壌の太陽熱または蒸気利用による土壌消毒
    • 土壌微生物の適正なバランスの保持による有害微生物の抑制
    • 病害の原因となる微生物に対して忌避効果のある微生物の利用

  2. タネ・苗の選定による防除対策
    • 適地適作の観点から作付け品目や品種の見直し
    • 抵抗性品種や抵抗性台木(※2)の利用
    • 健全な種苗の利用
    • タネを塩水により比重選別し、重い優良なタネを選ぶ
    • タネの温湯消毒

  3. 栽培管理方法による防除対策
    • 作付け時期の変更による病害虫の回避
    • 香辛植物など、臭いなどで忌避効果のある植物の導入
    • センチュウに対して忌避効果があるマリーゴールドや被覆植物(カバークロップ)など、有害動植物の発生を抑制する植物の導入、またこれらの生育に適した環境の整備など
    • 被覆作物による雑草対策

  4. ほ場周辺の環境管理による防除対策
    • 害虫を食べる野鳥やカエルなどの捕食性天敵や、害虫に寄生して殺すハチ類などの寄生性天敵の利用。またこれらの生育に適した環境の整備など

  5. 物理的資材の活用による防除対策
    • 光線の遮断(紫外線カット)により病害虫の活動を阻害
    • 誘蛾灯、防蛾灯の利用
    • プラスチックテープ等の反射光の利用
    • 爆音など音の利用
    • 電柵など電流の利用
    • 防虫用ネットの利用
    • 粘着トラップ
    • 手取り除草や中耕除草、草刈機利用など人力または機械的な除草方法など
    • 草マルチ、ポリマルチによる雑草対策
    • 地温調節装置による生育促進


このIPMハンドリング(総合的有害動植物防除管理)だけでは防除できない場合、例えば自己責任以外による突発的な事態などにより、ほ場または近接したほ場で有害動植物が発生したり、経験的に発生が確実に予測され、これを放置しておくと農産物に多大な被害が予測される場合のみ、JAS規格で定められた一部の農薬が応急処置的に使用可能となっています。

この条件付きで使用可能な農薬は、国際ルールに則った普通農薬と特定防除資材で、より安全性の高い天然系の農薬になっています。

有機JAS規格で指定された農薬の分類別リスト
農薬の主な分類緊急対策指定農薬
殺菌剤無機硫黄剤硫黄くん煙剤
硫黄粉剤
水和硫黄剤
硫黄・大豆レシチン水和剤
石灰硫黄合剤
無機鋼剤鋼水和剤
無機銅剤銅粉剤
無機銅・硫黄剤硫黄銅水和剤
ボルドー剤調整用硫黄銅
生石灰
炭酸水素ナトリウム剤炭酸水素ナトリウム水溶剤
炭酸水素ナトリウム銅水和剤
天然由来物質シイタケ菌糸体抽出物液剤
生物由来の殺菌剤天敵等生物農薬及び生物農薬製剤(BT剤など)
特定防除資材重曹
食酢
殺虫剤天然殺虫剤除虫菊乳剤(除虫菊から抽出)
ピレトリン乳剤(除虫菊から抽出)
なたね油乳剤
大豆レシチン・マシン油乳剤
マシン油エアゾル
マシン油乳剤
脂肪酸グリセリド剤
デンプン水和剤
ケイソウ土粉剤
二酸化炭素くん蒸剤
生物由来の殺虫剤天敵等生物農薬(BT剤など)
天敵天敵等生物農薬
殺虫剤昆虫性フェロモン剤性フェロモン剤
その他の誘引剤メタアルデヒド剤(捕虫器併用)
殺鼠剤液化窒素剤
蒸留抑制剤ワックス水和剤
生物由来の植物生育調整剤シイタケ菌糸体抽出物液剤
その他クロレラ抽出物液剤
混合生薬抽出物液剤
展着剤カゼインを有効成分とするもの
パラフィンを有効成分とするもの

有機栽培ではこれ以外の農薬は一切使用できません。
しかも常に使えるわけではなく、応急処置的にのみ使用可能です。


■注記

※1 中耕(ちゅうこう)
作物の栽培中、固くなった株周辺の土を浅く耕すこと。通気性をよくし、根の発達を促す。同時に除草もできる。

※2 抵抗性台木(ていこうせいだいぎ)
根から病気に感染しないために、その病気に強い(抵抗性のある)品種を台木として、苗を接ぎ木すること。

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